Beauty & Chestnut

栗野美智子オフィシャルウェブサイト(笑)へようこそ。ツイッターもやってます。@Michiko_Kurino

書評、または要約

オペラ入門(許 光俊)

去年の11月ぐらいにヤヴォルカイ兄弟のコンサートへ足を運んで以来、毎月3~5回ぐらいクラシックのコンサートに行っている。どの演奏会もそれぞれ個性があって素晴らしいのだけれども、とりわけ印象に残っているのが1月に行ったクトゥレーロ氏が指揮するウィ…

つゆのあとさき(永井 荷風)

先日の三連休前半は台風の影響で外出が出来なかったので、久々に荷風でも読もうかなと思い、「つゆのあとさき」を書架から出してきた。書架に詰めこんだ本の数は多いけれど、きちんと精読したものや、2回以上読んだ本は意外に少ない。そういうわけで、時間も…

ナラタージュ(島本 理生)

どことなく異国情緒が漂うタイトルと、白いワンピースを着た若い女性が窓の前に立っている瑞々しさと繊細さが混在するような表紙の写真が気になり、手に取ってみた。裏表紙を見ると「早熟の天才作家、若き日の絶唱ともいえる恋愛文学」とあるので何やら凄そ…

囀る魚 (アンドレアス・セシェ)

今年の冬は一段と寒かった。年明け早々にパンクした自転車のタイヤを放置してしまうほど、サイクリングのサの字も思い浮かばない生活をしていた。寒さが和らぐまでの間、と自分に言い聞かせて愛車を部屋の隅に追いやり、代わりにジムへ行ったり和菓子教室へ…

クマにあったらどうするか (語り手:姉崎 等 / 聞き書き:片山 龍峯)

最近は聞かなくなったが、私の自転車の師匠はよくクマの話をしていた。クマにあったら逃げてはいけない、とか、もし対面したら自転車を持ち上げて自分を大きく見せるように、とか熱心にクマ対策を練っているようだ。クマが出るほどの山奥を走れるようになっ…

全ての装備を知恵に置き換えること (石川 直樹)

犬もコタツで丸くなりそうな程の寒波と記録的な大雪が関東全域を襲った。トンネルを抜けなくても雪国である。郊外の交通機関は大きく乱れていたが、それでも私は「そのうちチェーンを付けたバスが来るだろう」と淡い期待をしていた。土曜日の昼の事である。…

ロンドン物語 メトロポリスを巡るイギリス文学の700年 (河内恵子・松田隆美 編)

不思議の国のアリスやアーサー王物語、ピーターラビットやシャーロックホームズ。私が知るイギリス文学といえば概ねこのようなファンタジーや騎士道物語、探偵小説であるが、実はイギリスとは豊穣な文学的背景と作品を持つ国なのである。ロンドンオリンピッ…

マノン・レスコー (アベ・プレヴォー)

マノンをマルグリットに贈る。 慎み深くあれ。 デュマ・フィス著「椿姫」の一文だ。主人公(聞き手)はある日、亡くなった娼婦マルグリットの遺品の競売に出かけたら、一冊の本「マノン・レスコー」が売られていた。他の遺品が高値で売れていく中、この本は誰…

素数の音楽 (マーカス・デュ・ソートイ)

明日は選挙なので、少し前に届いてどこかに置いたはずの入場券のようなものを探していたら、ずっと前に京都からの帰りの新幹線で読もうと思って恵文社で買った「素数の音楽」が本棚の奥の方から出てきた。私は机の上に物が置けなくなると本棚のスペースに詰…

マイトレイ (ミルチャ・エリアーデ)

久しぶりに小説が読みたくなって、図書館へ足を運んだ。海外文学のコーナーで面白そうな本を適当にピックアップして、パラパラとページをめくってみる。文体が気に入れば、本日のお持ち帰り。そうでなければ、再び書棚へ。こういう作業を1時間ぐらい続け、私…

或る女 (有島 武夫)

私は、本を読むときは隙間時間にチビチビと読むのではなく、ある程度まとまった時間をとってゆっくりと読みたい派である。最近はあまり読書に割くための時間がとれないので、最後に小説を読んでからどれぐらい期間があいたのかさえ定かではないが、(といって…

食は土にあり (永田 照喜治)

先日、板橋区西台の農園で活動している「農を楽しむ会」というサークルを訪問してきた。その日は大雨だったので、農園には入らず、案内人のNさんとの対話が中心だったのだが、遠目から見ても美しいオクラや、これから大きくなるであろう可愛らしいキャベツの…

粘菌 その驚くべき知性 (中垣 俊之)

今月の上旬に京都大学で数学入門公開講座を受講してきた。連日の猛暑のなか、滞在先の尼崎から京都まで、なるべく直射日光が当たらなく、かつ時間の掛からないルートを選択したつもりだ。会場である数理解析研究室は農学部のすぐ傍にあって、広い京大キャン…

日本の伝統 (岡本 太郎)

以前、サントリーミュージアムで開催された「アジアの玉手箱」展で、縄文時代に作られた土偶に出会った。日本史の教科書に出てくる、おなじみのアレである。日本史の授業は小学校、中学、高校で三度に渡り受けているので、土偶は教科書で何度も見ている。そ…

ルバイヤート (オマル・ハイヤーム)

いつの世に長き眠りの夢さめて驚くことのあらんとすらん (西行 山家集) 生ける者遂にも死ぬるものにあればこの世にある間は楽しくをあらな (大伴旅人 万葉集) 寝ても見ゆ寝でも見えけりおほかたは空蝉の世ぞ夢にはありける (紀友則 古今和歌集) 私は長らく「…

上田敏全訳詩集

近頃、李賀という唐の詩人の詩集をよく読む。前から興味があった人物で、李白が天才、白楽天が人才であるのに対し、彼は鬼才と言われている。その詩は幻想的で、神や亡霊が出てくる能の世界を彷彿させるものがある。そうか、中国(唐)にもそういった面影やう…

使える経済書100冊 (池田 信夫)

ここ数週間ほど、私は全くニュースを見ていないし、社会系ブログも金融系ブログも読んでいない。もちろん新聞も取っていない。特に深い意味はなく、テキストとして記述された社会の出来事は一種の連載小説のようなもので、後でまとめて読めば十分に繕えるの…

恋文の技術 (森見 登美彦)

五月四日拝啓。 守田君、お手紙ありがとうございます。慣れない能登での研究生活、なかなか大変そうですね。さぞや京都が恋しいことでしょう。私も以前、大阪から宮崎に引越しをした時、宮崎の閑散とした様子に随分と面食らいました。おそらく大阪から宮崎へ…

伝統の創造力 (辻井 喬)

かつて、経済学者ハイエクは「伝統とは多くの場合、既得権の別名にすぎない」と喝破した。同じように日本にも、「伝統」が捻じ曲げられて、本来の姿から遠ざかっている事を見抜いた人物がいる。辻井喬氏だ。日本の伝統はどのように変わったのか。その原因は…

遊女の対話 (ルーキアーノス)

MK:ルーキアーノスという古代ローマ時代を生きた作家の「遊女の対話」という本を読みました。古代ローマといえば世界史の授業で最初の方に出てくる時代ですね。猿人、原人、旧人、新人達の先史の世界があって、打製石器や言語が誕生します。アルタミラやラ…

空気の研究 (山本 七平)

・日本経済を活性化させるためには、ベンチャーを支援しなければいけない、と考えている。 →でも、自分は起業しないし、友人が起業したいといったら止める。ていうか、ベンチャーって大博打だよね。 ・飲み会や合コンなどで血液型の話題で盛り上がる。「え?…

週末起業サバイバル (藤井 孝一)

著者は「週末起業」という言葉を産み出した藤井孝一氏。この言葉自体はよく聞いたことがあるが、勝手に派生したものだと思っていた。■雇われる生き方は危険! 著者は「日本を、起業家であふれる国にする」という使命のもと、6年前に「週末起業」を出版した。…

Studies in Organic (隈 研吾)

隈さんの本を取り上げるのは2度目である。1度目が「建築入門」。以降、このブログでも何度か隈さんの話題に触れてきたような気がする。私のお気に入りの建築家の一人だ。(もちろん、一番好きなのは安藤忠雄さん!) 隈さんはどこか浮世離れした仙人のようなイ…

はじめてのトポロジー (瀬山 士郎)

トポロジー。 何とも不思議な響きである。トッポジージョと、西田哲学(トポス)を足して割ったようなものを連想させる響きだ。もしかしたら、トッポのようなお菓子を連想するかもしれない。ロジクールのマウスでも良い。思いつく限り述べてみたが、この適当な…

こんな日本に誰がした 日本の危機と希望 (堺屋 太一/渡部 昇一/岡崎 久彦/松田 尚士)

AmazonのKindle、AppleのiPad。携帯で青空文庫も読めれば、PCで書籍をダウンロードして読むことも出来る。日本に電子書籍が普及するのはまだ時間がかかると思うが、読書愛好家としては非常に面白い時代を生きていると思わざるを得ない。とはいえ、どんなに書…

なぜ日本の政治経済は混迷するのか (小島 祥一)

失われた10年が失われた20年になろうとしている。硬直した労働市場。浮き彫りになる年金問題。迷走が続く新政権。解体寸前の旧与党。隣国のGDPの伸び率に脅威を感じる一方で、本年度も横ばいの日本。この国はもう成長しないのか?総論と各論は蜜月関係になる…

マイクロファイナンス 貧困と闘う「驚異の金融」 (菅 正広)

誰の言葉だったか忘れてしまったが、一冊の本を読むことは一回の旅に相当するらしい。なので、その人は本を一冊読むことを「一旅」、二冊読むことを「二旅」と言う。多読ならぬ多旅をすることにより、ある地点で量が質に転化する。一つのジャンルに拘ること…

百代の過客 (ドナルド・キーン)

今ではとても考えられないが、中学生ぐらいの頃、日記を書いていた。どこかの出版社が出している日付と曜日だけ印刷された空白の文庫本に、その日の出来事や思ったことなどを書き綴った。1ヶ月ぐらい書かなかった事もあり、後で必死に思い出してそれなりに書…

夢みるクラシック 交響曲入門 (吉松 隆)

交響曲とは、人間である。人間であるから、夢を見るし、恋をする。喜びもするし、悲嘆にも暮れる。 また、交響曲とは、文学でもある。文学であるから、人生や運命、雄大な自然や幻想を表現する。 そして、交響曲とは、建築である。建築であるから、構造があ…

ピアニストになると思わなかった (天平)

タワーレコード渋谷店の6階が会場だった。エスカレーターで5階に着くと、既にピアノの音が聞こえてきて、私は時間を間違えたのかと思った。急ぎ足で6階へ向かう。音の発信源の方へ、半ば直感的に進むと、既に少し人だかりができていた。しかし、まだ人の…