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電子書籍のライバルは紙の書籍ではなく有料メルマガだと思う

iPadの発売が4月3日に決まった。日本では4月下旬と予定されている。秋にはKindleの日本語版、グーグルとマイクロソフトの電子出版システムがリリースされるらしい。日本の意欲ある出版サイド(出版社ではなく、出版の意志ある供給サイド)もこの波を放っておかず、いくらかの先駆けとなるものがそのうち出てくるだろう。大いに結構。カスタマー予備軍の一人として、「付箋」「書き込み(そのページにメモをとる機能)」「マーカー、ライン」機能をリクエストしたい。「書き込み」に関してはiPhoneのような遅〜い処理ではなく、サクサクとタイプ出来るものを希望する。

もはや、電子化の流れに「紙」が対抗する術はないだろう。最近の事例として挙げると、日経の電子新聞は一旦破綻すること必然だが、「紙の新聞より安くしたプラン」で復活してくるに違いないと私は見ている。電子化にするメリットは流通のコストを下げること、情報入手→印刷→配達のタイムラグを可能な限り縮小すること、店舗を維持する経費が削減できることである。誤字があればウェブ上で瞬時に修正すればいい。そして、後記で「○○→××に修正」の一文を記しておけば、信頼性も確保できる。話を「書籍」に戻すと、これも同様に「紙であること」にいつまでも執着する必要はない、というわけだ。紙のメリットを電子化できればいいだけで、ライターも多額の印税(アマゾンの場合は70%)を手にすることができる。従来のように出版社に依拠しない個人出版も容易に行われ、情報のアウトプットが活発に行われるだろう。アウトプットが活発に行われれば、玉石混合の対策として「優良な情報を集めたプラットフォーム」なるものが生まれてくるだろう。ブログに関して言えば、既にその動きがある。実に面白い時代である。私は現代に生まれたことを大変幸福に思う。

昔、書物は限られた人しか手にすることが出来なかった。グーテンベルク活版印刷時代が来て、書物が流通し始めた。歴史に残る革命である。それでも書物はまだ高価だったが、時代と共に廉価なものとなった。ユーザーの支持と出版側の努力による結果である。さて、1冊1000円の本があったとする。著者はいくらの印税を手にすることが出来るだろうか?紙の場合、印税は7〜8%なので、1000円の本を1冊売って70円〜80円の計算になる。残りは出版社に「必要な経費」として持っていかれる。「必要な経費」なので、「無駄」だとは言わない。出版社が行うマーケティングもこの費用で行われるのだから。実に平等なシステムであるが、中には出版社の支援が必要ないライターもいるだろう。そのような層にとって、残りの92〜93%(場合によっては、もうちょっと低い率かも知れないが)は大きな負担に感じる。電子化によって紙の本が売れなくなると仮定すると、出版社の支援が必要な人は困るかもしれないが、また別の支援システムが誕生するだろう。要するに、電子化して困るのは「従来のシステムから脱却できない出版社」と「古本産業」だけである。

私は紙の本も好きだ。しかし、電子化してくれると大いに助かるのも事実である。装丁に特徴のない新書や文庫本の類は全て電子化して所有したいと思っている。「紙」でなければ(現在の時点で)ニーズを満たせないのは美術書などの芸術分野の書籍だけではないだろうか?こういった分野は「高級品」として残れるだろう。また、古書収集ファンの一人として、電子化してくれれば「廃刊、絶版」したものを神保町やネットで探す手間も省けるし、無駄に高騰した値段に泣くこともなくなる。電子化万歳だ。出版して2〜5年ぐらいの書籍なら、古本屋でも定価に近い値段で売られている。大して変わらないなら、定価で買う。古本屋で格安で手に入るのは「大量に売れた本のうち、大量に売られた本」だけで、その大多数が「特に内容の無い本」である。

もはや電子書籍に紙の書籍が対抗している「電子vs紙」の図式はあまりにも幼稚で、思わず鼻で笑いたくなる。これは情報に対してお金を払っている感覚の希薄さから来るものだろう。紙に拘るのは、「紙」という「物質」が目に見えるからだ。買っているのは「情報」にすぎず、「紙」は提供方法の一つにすぎない。「情報は紙がいい」派が気付くのは時間の問題だろう。ホリエモンの有料メルマガの記録的な売り上げや、ニコ動の有料会員ユーザー数を見れば、意外と「情報にお金を出すことに抵抗の無い人」は多く存在する。電子書籍推進派は紙なんかライバル視していない。「情報」のライバルは「媒体」ではなく「情報」なのだ。

※ブログ記事を一部修正。
「紙にこだわらない人」→「情報にお金を出すことに抵抗の無い人」