Beauty & Chestnut

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弘前発カジュアル++フレンチ レストラン山崎

地産地消という言葉が叫ばれるようになってから結構な時間が経過した。食の安全を求める声は日に日に大きくなっており、最近では生産者の名前のみならず顔写真までもが印刷されている袋入りの野菜がスーパーに出回っている。意識が高まっているものの、やはりどこか他人任せな所があるのを誰もが少しは認識しているが、だからといって直接畑へ行って生産者に会うことは忙しい現代人には極めて難しい。そこで生産者と消費者を結ぶ信頼できるパイプ役が必要になってくる。それは食を扱っているレストランでも同じだ。レストラン山崎というカジュアルフレンチの名店が、本州最北の地、青森県弘前市にある。最近まで知らなかったのだが、弘前市はフレンチ レストランの激戦区で有名らしい。そもそもは町おこし的なキッカケでフレンチ レストランが出没しだしたのだが、今では人口比にすれば日本一多いのだとか。本レストランのシェフ 山崎氏は徹底して生産者とのコミュニケーションを図っている。茂木健一郎さんのテレビ番組で一躍全国区となった木村明則さんを早くから応援し続けていた。食材は徹底して地元で取れたものにこだわっており、メニューの名前からそのことを伺うことが出来る。山崎氏のポリシーを垣間見ることで、このレストランなら安心して食べられるのではないか、という信頼感が芽生えてくる。食材の産地を訪れた事のある人なら、そうかあの土地の野菜なのか、とより一層美味しく食べられるはずである。

料理:★★★★
ランチコースは1575円と3150円の2種類が用意されている。追加料金の発生するメニューがいくつかあり、劇的に高くなるわけではないが少し注意が必要。最初は1575円のコースを頼むつもりだったが、旅先ということもあり、「今食べなきゃ、食べ物が逃げていく!」という俗物根性から3150円のコースを選択。木村さんのリンゴを使ったスープは追加料金が500円。この日一番のお楽しみ。グラスワインが1杯500円前後であったが、その価格帯のワインは飲めないかもしれないのでオーダーせず。水がフリーなのは有難かった。

最初のオードブルとして、やはりフォアグラ入りの田舎風パテを注文。名前は忘れてしまったが、おそらく産地か生産者の名前が入っていたと記憶している。ずっしりと重みのある一皿で、フォアグラがたまらないほど美味。好物は最初に食べるに限る。二皿目は木村さんのリンゴの冷製スープ。木村さんは実現不可能だと言われていた無農薬、無肥料のリンゴ栽培を行っていることで有名だ。周囲からの理解を得られず、8年間実が成らなかったとのこと。そんな奇跡のリンゴを山崎氏がスープにして提供してくれている。ペースト状にしたリンゴの甘みが口の中に優しく広がる。調理方法はおそらくリンゴの甘煮をミキサーか何かで液状にして、牛乳とシナモンを混ぜたものだと推測される。デザートとして頂いても何ら問題はない。暑い朝に目覚めのスープとしても最適だろう。(リンゴの冷製スープはレトルトで購入可能。) メインディッシュは幻の魚イトウ(だったか?)の香草焼き。皮はカリッ、身はふんわり。よく食材の扱いを心得ていると思う。幻と銘打っているイトウはサーモンのような味だ。一緒に出されるソースがとてもクリーミーで、相性抜群。さすがフランスで修行をなさっただけある。まさしく正統派フレンチのソースだ。パンを浸けようかしら、と一瞬思ったが、個人的なポリシーでパンwithメインディッシュのソースはやらないことにしている。その動作の見た目が美しくないから。ただ、これが自宅であったなら、確実に浸けていた。それぐらい美味なソース。最後にデザート。ブラウニーのようなチョコレートケーキをチョイスしたが、これが少し残念。ここまでとても美味しくて見た目も整ったものがサーブされていたのだが、デザートが極めて平凡なのである。何種類かあった中でのチョイスなので、他のデザートはどうなのか知らないが、2、3種類に減らして趣向を凝らしたほうが良いのではないか、と勝手に思った。とはいえ、ここはスイーツ専門店ではない。メインが美味しければそれで良いではないか。何よりも限られた食材でこんなにも多彩で付加価値の高いお料理を提供できるレストランはそう多くは無い。貴重な店であることに変わりない。

食器:★★★
白を基調としたお皿で、冷静スープはガラスの器に盛られてサーブされる。あくまで主役は料理である。

空間:★★★
店内は無駄の無いシンプルな内装。掃除は隅々まで行き届いており、テーブルとテーブルの間隔も丁度良い。華やかさは無いが、美味しく快適にフレンチを頂ける環境である。

接客:★★★
電話で予約した時の対応が非常に良かった。接客態度にも問題は見られない。ただ、料理の説明が簡潔すぎないか、という印象を受けた。折角良い素材を使っているのだから、それを解説すれば美味しいフレンチがもっと美味しくなるのではないだろうか。遠方からのお客さんはもとより、地元の人でも案外、灯台下暗しである。幻の魚が何故幻なのか。木村さんとはどのような人物なのか。料理の説明はシェフとお客さんを繋ぐ物である。想像力で補っても良いのだが、山崎氏のポリシーを伝える機会を無駄にしている気がして非常に勿体ない。ものすごく空腹な人はフレンチのようなスローフードレストランには来ないものなので、もう少しお客さんとのコミュニケーションを図ってはどうだろうか。

総合評価:★★★★
このお店の最大のセールスポイントは食材の物語性と確かな料理技術、そしてコストパフォーマンスだ。食材の物語性とは、素性が明かされていることによって喚起される食欲のようなものである。たとえば「桃1個」と「○○さんが愛情を込めて作った桃1個」なら、多くの人は後者に魅力を感じるだろう。本格的なフレンチのコースが1575円で食べられるのはとても有難い。東京だとブラッスリー ポール・ボキューズのランチコース料理がその価格帯であるが、やはりこちらの方が1枚も2枚も上手である。通常、総合評価は星の合計を4で割って四捨五入して算出しているが、このお店には、「また行きたい」と思わせるものがあるので星を一つ多めに付けた。丁寧な仕事と山崎氏の哲学に感銘。地図帳と地理の教科書を持って訪問すればさらに美味しく頂けるだろう。