Beauty & Chestnut

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東京借景 Au Gout du Jour Nouvelle Ere

東京の玄関、復元前の東京駅の屋根は三角、復元後はドーム型、けれども個人的な目測によって東西及南北に断面的に作ってみると云々。以前に太宰の富嶽百景を読もうとして数秒で挫折したことがある。そもそも私は太宰治が嫌いである。さて、芸術鑑賞が好きな人なら誰もが一度は思ったことがあるだろう。作品を鑑賞しながら美味しい食事とお酒を堪能したい、と。芸術作品は絵画に限らず音楽でも良いし、舞台でも良い。しかし残念ながら、食事と共に堪能できるのはミドルエイジ向けのディナーショーとコットンクラブなどのJAZZクラブ、評価の難しい現代美術(小品)を数点飾っているバーに限られている。いやいやいや、私はアートに触れながら食事がしたいのだよ、と思っても美術館では食事はおろか、私語までも慎まなければならない。好きなものを眺めながら、美味しいものを食べたいとかねてから切望していた私に、至福の時間を提供してくれる素敵な空間があった。そう。Au Gout du Jour Nouvelle Ereである。

今回はレストラン探索後の計画的な訪問ではなく、そこで開催されるブルゴーニュのワイン会で2009年のグランクリュ、プルミエクリュを飲むのが目的であった。開始時刻5分前に新丸ビルに到着し、5階に上がって重厚な扉を開けたら、そこには青空と東京駅が一望できる大きな窓が見えた。これはすばらしい眺めだ、と思った。受付で手荷物とコートを預け、ワイン会の幹事と参加者の方に軽く挨拶をし、着席して再び窓の外を眺めた。銭湯に富士山の絵が描かれているように、東京駅はごく自然に、だけども立派な佇まいでそこに存在していた。百の豪華な調度品よりも、一つの名建築によって与えられる景観は、見る人を魅了してやまないだろう。私は辰野金吾に感謝の念を捧げ、これから始まる食事会はすばらしいものになる事を確信した。

料理:★★★★
アミューズ、前菜2種(鮮魚のカルパッチョ、白子のフライ)、メイン(牛頬肉)、デセール、コーヒー、プティフールの軽めのコースを選択。質実剛健で、一品一品に丁寧さとこだわりが感じられる。

アミューズは今までに食べたことがないぐらいのフワッフワのシフォン、チーズとハムをロールして一口大にカットしたもの、パテをビスキュイに挿んだかわいらしい小品が並ぶ。添えられているクリームは程よい塩味と乳製品特有の奥深さがマッチしており、スープに乗せても美味だろうと思った。

鮮魚のカルパッチョはとてもヘルシーで、シャンパーニュと相性が良い。

白子のフライは白子の滑らかさ、濃厚さがサクサクの衣によって引き立てられており、一口食べるごとに至福の瞬間が訪れる。

メインの牛頬肉は赤ワインで30時間煮込まれていてとても柔らかく、煮込み料理の真髄を発揮していた。

ワイン会幹事による素晴らしいチョイスのワインと共に、お料理とワイン、時に東京駅を楽しんだ。

空間:★★★★★(借景含む)
店内は黒を基調としたシンプルな内装で、客席も5〜6組入れば満席になってしまう広さである。すぐに予約で一杯になってしまうことが容易に想像できる。壁には小さな絵画が数点飾られており、モダンでスタイリッシュな雰囲気になっている。窓辺には景観を楽しみながら食事が出来る席があり、次回一人で訪問するときは是非とも座りたいものである。また、キッチンの一部が見えるようになっており、座った席によってはシェフの仕事の様子を観察することが出来る。私の席からは丁度背後になっていたので確認できなかったが、イケメンのシェフがいるらしい。

食器:★★★+
お料理が引き立つように計算されたシンプルなデザインのお皿が用いられていた。石庭のような引き算の美学による選択のように思えた。白いお皿が続くと退屈してしまうが、そういった心配は無用である。

接客:★★★+
テーブル数が少ないこともあり、行き届いたサービスを受けることが出来る。出来立ての料理を適切なタイミングで提供し、パンやワインが無くなったらすぐに用意してくれる。心地よい接客である。

総合評価:★★★★
美味しいものと近代建築が好きな人には打ってつけのレストランである。ホスピタリティの雄がトゥールダルジャンであるのなら、こちらは景観の雄だろう。後藤新平の都市計画に思いを馳せながら、極上の休日の午後を過ごすことが出来る数少ない場所だ。近代建築は明るい時間に見たい、という個人的な好みにより、次回もまたランチタイムに訪問したい。