Beauty & Chestnut

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バーのある人生 (枝川 公一)

バーという空間がある。お酒を味わい、会話を楽しみ、音楽を体で感じ、時には沈黙さえも至上の癒しとなる。そう、バーの楽しみ方は無限なのだ。

私の初めてのバー体験は宮崎のシェラトンホテルの(多分)最上階にあるバーで、ジャズの生演奏を週に何度かやっていたところだった。その話はいつぞやの記事に書いたので割愛するが、以降バーを日常的に活用してきたかといえば、そうではない。やはり、バーはどこか特殊で敷居の高い場所なのである。その原因は、バーの閉鎖性にある。本書は、そんなバー初心者向けに書かれたバーのハウツー本である。

■What is Bar?
カウンター席につくと、バーテンダーが声を掛けてくる。最初の1杯目は何にしようか、と考える。カウンターの向こうには、お酒の瓶が所狭しと並んでいて、あたかも自分の出番を待っているかのようである。ふと、緑の瓶が眼に留まる。Violetなんとか、と書かれてあり、まさかスミレを使ったお酒なんてあるわけないだろう、と思ったものの気になったので聞いてみる。「あぁ、それはね、スミレの香りがするお酒なんですよ。別名『パルフェ・タムール』と呼ばれていて、フランス語で『完全な愛』という意味なんです。とても上品な香りがしますから、よければ1杯お作りしましょう」そう言ってバーテンダーは数本の瓶を取り出し、手際よく作り上げる。そのシーケンスはあたかも優美な音楽のようである。

バーテンダーとは、「バー」と「テンダー」を組み合わせた言葉であり、「バーでお世話をする人、バーを管理する人」などの意味がある。お客さんが求めるものを瞬時に察し、最高のおもてなしをするプロフェッショナルだ。出されたおしぼりからはダウニーの良い香りがした。こういう、眼に見えない心配りも忘れない。カウンターは舞台である。主役はお酒で、バーテンダーは黒子に徹する。しかし、舞台は拡張性に富んでいる。ひとたびお客さんとバーテンダーの会話が始まれば、お酒は主役から媒介へと変化する。お客さんが自分の世界に没頭すれば、他は全部脇役になる。そう、バーという空間は生き物なのだ。「バーテンダー」「お客」「お酒」の三者が、役割を転々としながら先の読めないドラマを織り成していくのである。

出されたカクテルの名前は忘れてしまった。スミレのお酒とレモンジュースと、何かを混ぜたもので、不思議な味がした。なつかしいような、新しいような。甘いような、それでいて、苦いような。私の持っているボキャブラリー程度では表せない味だった。ただ、記憶に残る味であるのは確かだった。

■How to choice the bar
日本のバーは、ホテルで生まれた。外国人と一部の特権階級の人々にのみ利用されていたが、経済成長を経て、一般の人も利用するようになった。そのころからだろうか。バーはホテルだけではなく、街角にも現れだした。ホテルのバーテンダーが街角に店を構えて仕事をすることを「街場に降りる」というらしい。ホテルのバーと街角のバー。同じバーでも、一味も二味も違う。

ホテルのバーはたくさんのストックから、お客さんのオーダーに対応することが可能となる。ホテルにある、という高級感、整った設備、ゆとりのある空間でお酒を楽しむ。社交場としての機能も持っている。一方、街角のバーはスペースが限られているので、ホテルほど大量のお酒を所持することが出来ない。しかし、豊富な知識量、「こういうお酒はどうですか?」という提案力、お客さんとの距離が近い、という利点を活かし、日夜邁進している。技術面に関して言えば、ホテルのバーテンダーも驚くことがあるらしい。バーを利用しようとしたとき、どういう気分なのか、またはどういう目的なのか、で使い分けることが可能となる。

■How to find your favorite

カクテルの種類は無数にある。もちろん、事前にカクテルブックか何かで飲むものを決めて行ってもいいだろう。残念ながら記憶力に恵まれなかった私は、「こうこうこんな感じのカクテルを作ってください」と伝える。折角バーに来たのだから、普段飲んでいるカシスオレンジとかチャイナブルーのような居酒屋での定番メニューとは違ったものが飲みたい。(もちろん、頼んだとしても、居酒屋よりはるかに美味しいものが提供されるのは知っている。) そういや、前に見たあのカクテル、名前は何だったかな、なんて珍しいことではない。驚くことに、これは本書を読んで初めて知ったのだけど、「風邪に効くカクテルを作ってください」というオーダーも可能らしい。そう。カクテルとは何かと何かを混ぜ合わせたものだから、こういうのも大いにアリなのである。

■So, how to into a bar
とはいえ、やはり初心者にとってバーとは、どことなく入りづらいものである。場数を踏むしかないんじゃないかな、と私は思う。バーの数だけシキタリなるものがあるのは事実だけれど、「入る」「席に着く」「オーダー」「お会計」のシーケンスはどのお店も変わらない。とにかく行って、1杯オーダーしてみれば、緊張も解けてくるのではないだろうか。閉ざされた環境というのは、入ってしまえば安心感をもたらしてくれるものである。

Hope you have a good bar time!