Beauty & Chestnut

栗野美智子オフィシャルウェブサイト(笑)へようこそ。ツイッターもやってます。@Michiko_Kurino

夢みるクラシック 交響曲入門 (吉松 隆)

交響曲とは、人間である。人間であるから、夢を見るし、恋をする。喜びもするし、悲嘆にも暮れる。
また、交響曲とは、文学でもある。文学であるから、人生や運命、雄大な自然や幻想を表現する。
そして、交響曲とは、建築である。建築であるから、構造があり、様式や形式がある。
要するに、交響曲とは、表現そのものである。

朝にバッハのItalian Concerto(グールドあたりが良い)、通勤時にブラームス交響曲1番(なんだかんだでカラヤン)、小雨が降る夜に、一人で本を読む時はプロコフィエフのPiano Concerto No.2(ユンディ・リがお気に入り)、なんとなく気分を落ち着けたいときはゴルトベルク変奏曲(これもまたグールド)など、気分や天気、状態によって、サプリメントのようにクラシックを使い分ける。もちろん、この素人丸出しの選曲は、本格的にクラシックを勉強している人や愛好家からすれば、大いに指摘すべき点があるだろう。しかし、感性や感受性でなんとな~く選曲するのも悪くない。細かいことは後から勉強すれば良いのだから。

本書「夢みるクラシック 交響曲入門」は、クラシック音楽の1ジャンル、<交響曲>について説明した初心者向けの本である。登場人物は三人と一匹。「センセ」と呼ばれる作曲家の先生、センセの住む部屋の大家の娘「響君」、響君の友人でメタル愛好家の「ミスター・ピック」、そして飼い猫の「G#(ジーシャープ)」。センセと響君の対談を中心に物語は進んでいく。

交響曲誕生前夜
交響曲とは、オーケストラのために書かれた純音楽作品の事を言う。意外と知られていないのが、交響曲とは始めから独立した存在ではなく、オペラの<序曲>として存在していた。そう、「これからオペラが始まりますよ」といった案内にすぎなかったのだ。しばらくすると、オペラの開始の案内や伴奏だけではもったいないぐらいの技量を持ったプロのオーケストラが生まれてきた。歌も踊りも無い「音」だけの表現で、いかに聴衆を惹きつけるか。作曲家により試行錯誤が繰り返された。

■序曲から交響曲
交響曲の誕生には、ハイドンが大きく貢献している。彼は宮廷楽団の音楽監督の仕事をしていて、数多くの曲を書いた。聞き手を厭きさせないため、彼は「4つの楽章からなる音楽」という形式を生み出した。これが、交響曲である。第一楽章で曲の性格を提示し、第二楽章で緩急を入れて、第三楽章を間奏曲風にし、第四楽章で盛り上げて終わらせる。よく料理のフルコースにたとえられる。

交響曲の成長
ハイドンにより交響曲のフォーマットが作成された後、モーツァルトが登場する。彼はハイドンと親交を持ち、お互いに良い刺激を与え合った。モーツァルトが書いた交響曲の中で「第39番」「第40番」「第41番」はとりわけ名作で、ハイドンの形式を使いつつも、不思議な情緒をかもし出している。これら3つの交響曲を「三大交響曲」という。この三大交響曲は、聴衆の好みや貴族の委嘱とは関係なく、芸術家が純粋に音楽の芸術性のみを追求した始めての交響曲だったらしい。そして、ベートーベンが登場する。彼が書いた9つの交響曲により、交響曲の芸術性は極みに達した。

交響曲の変化
ベートーベンの9つの交響曲は、作曲家達に大きな影響を与えた。ブラームスは、彼を越えようと思い、最初の交響曲を書くのに20年もかけた。先達によって交響曲が完成してしまったせいか、当然、交響曲そのものにも変化が見られるようになった。ベルリオーズは「小説」「戯曲」を「交響曲」と融合させ、ワーグナーは「演劇」を融合させ、リストは新たに「交響詩」なるものを生み出した。

駆け足で交響曲の成り立ちについて述べてきた。さて、交響曲では何が表現されているのか。元々は4つの楽章からなる交響曲。それぞれの楽章には意味がある。「愛」をテーマにした交響曲なら「出会い」「恋わずらい」「不安」「勝利」などの意味を楽章に持たせて物語を形成する。「人生」をテーマにした交響曲なら「人生の肯定」や「運命への抵抗」「生きる喜び」といったものを表現している。これらの表現を可能にしているのが、<対位法><形式><様式>の3つの要素である。<対位法>によりメロディの組合せが構築され、音楽に広がりと構成感を持たせる。バイオリンもトランペットもチェロもずっと同じメロディを奏でていたら、聴衆は退屈する。それぞれの楽器の持ち味を活かし、最高のパフォーマンスを発揮させるための要素である。次に<形式>。クラシックでは「ソナタ」というのが一番大事な形式である。「序奏部」「提示部」「展開部」「再現部」「結尾」に分け、どう聴衆を惹きつけるかを考えたり、主題(テーマ)を技巧的に表現するか工夫を凝らす。そして<様式>。時代や思想、方法論に応じた音楽の形態のことを言う。音楽は建築的である。そして、建築も音楽なのだ。三菱一号館のレンガはフーガを奏で、レンガ造りという形式を持ち、クイーン・アン様式である。いやー、竹中さんはいい仕事をしてますね!!ね、K君よ。

クラシック(交響曲)は実生活から遠く離れた特別な存在ではない。なぜなら、クラシックは日常から生まれ、日常に潜み、また誰かや何かによって表現されているから。美しいものを美しいと感じ、それを追求していく。必ずしも何かの役に立つわけではないけれど、世界に耳を傾けてみるのも悪くないと思う。