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遊女の対話 (ルーキアーノス)

MK:ルーキアーノスという古代ローマ時代を生きた作家の「遊女の対話」という本を読みました。古代ローマといえば世界史の授業で最初の方に出てくる時代ですね。猿人、原人、旧人、新人達の先史の世界があって、打製石器や言語が誕生します。アルタミラやラスコーなどで見られる洞穴絵画もこの先史の時代です。日本語のルーツを探るときに世界の言語の系統分類表を見てあれこれ考えるのですが、私が一番好きな時代でもあります。次に好きなのは三国志の時代、つまり黄巾の乱が起こり、後漢が滅んだあたりなのですが、これは今回関係ないので省略します。古代ローマは先史時代の少し後の話ですね。

TS:ローマはギリシアの影響を受けて誕生した都市国家なのだけど、このギリシアについて簡単に説明するよ。ギリシア人の世界は地中海という交通路があったけど、エジプトのように大河や肥沃な土壌には恵まれなかった。その代わりオリーブの栽培や牧畜が栄えたよね。オリーブは今でも栽培していて、地中海といえばオリーブオイルを使った料理、といったイメージが現代にも引き継がれている。この辺の時代は19世紀にシュリーマンが徹底的に研究しているね。彼の「古代への情熱」という自伝は本当に面白い。彼は中国に行った後に日本にも来ていて、横浜や江戸を見物したらしい。

MK:都内のマンションから街を見下ろしながら、シュリーマンが横浜や江戸のどこら辺を探索したのか、なんて考える時間は最高に贅沢ですね。遊女の対話を読んで面白いと思ったことが2つあって、そのうちの1つがギリシアにもちょっと関係するのですけど、今の時代に似ている部分があるのですね。ギリシアが発達するにつれて、ポリスの枠にとらわれない生き方をする世界市民主義と呼ばれる思想が出てきました。これはグローバル主義とあまり変わらない思想です。中央集権的なものが腐敗してきたり、何らかの綻びが目立つ様になると、かならず出てくるような気がします。日本の道州制の導入案も現在の政治経済システムの綻びが見え始めてきたから、いうなれば、出てくるべきものとして出てきたわけです。社会システム的にも興味深い現象ですね。そして、生活が豊かになるとモノを満たすより内面を満たそうとする思想も生まれました。こういうのは人間の法則と言っても過言ではない気がします。ローマには無産市民と呼ばれる人達がいたのですが、現代風に言えば高等遊民でしょうか。属州から安い穀物が輸入されていたのも、途上国から安い食物を輸入している現代に通じます。まぁ、最近は食料自給率の問題が声高に叫ばれていますけどね。いろいろな考え方がありますが、個人的には大前研一ホリエモンに賛成です。憲法で労働は義務と権利である、と明文化したのが良くなくて、現代社会では権利だけにした方が適切だと思いますね。義務という言葉が独り歩きしすぎたから、問題が複雑になってお金がかかるようになる。権利の見直し・再定義が必要です。

TS:保守的な考え方の人達とは真っ向から対立しそうだね。ローマ時代風に言うと、閥族派と平民派の対立、といったところだろうか。貧富の差が激化したのも、現代とローマの共通点だね。現在は民主党の迷走と日本の混迷が続いているけど、平成のポンペイウスは出てくるかな?

MK:どちらでも結構ですよ。さて、現代と本書の背景となっているローマ時代に共通するところが多々あるのを認識するのが、本書をより面白く読むためのポイントの1つですね。親近感を持って読むことができます。次に、面白いと感じだのが、遊女達の会話から伺える割切り感のようなものでしょうか。私はキャバ嬢に興味があって、たまに「小悪魔ageha」という雑誌を立ち読みするのですが、キャバ嬢には大雑把に分けて2種類あると思います。もちろん、キャバ嬢と遊女は別物なのですが、男性相手に商売をする、という本筋が共通しています。誰でも良いから男性に頼って生きたい人と、自身の恋路に愛想を尽かして商売に徹している人。もちろん、強いのは後者です。小悪魔agehaにも後者の価値観で自身を語るキャバ嬢が多いです。ローマの遊女との違いは恋路に愛想を尽かす過程で結構病んでいる場合が多い、と言うところですかね。これは現代社会にも一因あると思っていて、キャバ嬢や風俗嬢やっています、と言うとメディアは「家庭環境に問題があったのではないか」と騒ぎ立てます。幸せな家庭で育った子供がそんな商売をするはずない、という図式があるのですね。そして、実際にキャバ嬢の口からも、幼い時に両親が離婚しました、とか、付き合っていた人に裏切られました、という体験談がゴマンと出てくる。ですが、幸せな家庭や恋人との関係、というのもかなり曖昧で象徴的なもので、どこの家庭・カップルにも何らかの問題が2,3はありますよ。

TS:行った事はないけれど、アジアの途上国や中南米では男性相手の商売をしている女性たちはそれほど暗い印象がないよね。合法ではないけれど、仕事の一つとして認識されている。その背景には、家庭には何らかの問題があって当然、という考え方があるからなのかな。家庭はこうあるべし、のようなものがあまりないよね。こういった負の側面とされる部分でも、日常生活にごくあたりまえの様に混在している。一晩過ごしてお金をもらう、それの何が悪いの。私達は買われているんじゃなくて、お金を通して対等だ、と。欧米の契約的な社会にも通じるね。まぁ、全てのケースに適用できるわけではないけど。

MK:そうですね。途上国で女性の就ける仕事が増えたときに彼女達がどのような選択をするかには非常に興味がありますが、いかんせん、日本では扱い方がどうも暗いし、社会的な印象が良くない。さすが演歌を生み出した国です。不幸や苦労が美徳のような価値観があります。まぁ、そういった研究は宮台真司さんに任せておいて、この本では遊女の駆け引きのようなものが紹介されていて、現代でも使えそうなものが結構ありました。

TS:つまりは、古代ローマから人間はそれほど進歩していない、ってことだね。いや、人間って進歩するのかな?

MK:それについても、どちらでも結構だと思っています。人類の進歩なんて、数ヶ月サイクルで行われるのは不可能です。長期的には我々は皆死んでいるわけですから。

※ここで対話している人物MKとTSは架空の人物ですが、MKの方に私の思想が濃く反映されています。