Beauty & Chestnut

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外科室 (泉鏡花)

私は、よほどの事、たとえば昨晩は徹夜でしたレベルでない限り、会社の昼休みに眠ったりはしない。というのも、一度ひどく不可解な寝言を言っていたのを指摘されて以来、人の集まる場所では怖くて眠れなくなってしまった。とはいえ、やはりどうしても睡魔に屈せずに眠ってしまうこともある。

泉鏡花
彼が潔癖症だった事やウサギ柄が好きな事、尾崎紅葉の弟子だった事、等の小話はいくつか知っていたが、実際どんな小説を書いていたのかは知らなかった。以前誰かに谷崎潤一郎が好きだ、と話したところ、泉鏡花も気に入るのでは、と言われて以来気がかりだったものの、なかなか実際に読むことはなく長い時間が過ぎた。いや、少し読んでみて、文体が難しく感じたのだ。まるで、古文でも読んでいるような感じである。そういった理由で遠ざけてきたが、また気になって読んでみた。

外科室は映画化にもなっている通り、泉鏡花の代表作である。
貴族の夫人が手術を受けるところから話は始まる。麻酔は使わないで、と懇願する夫人。麻酔が効いてくるとうわ言、とりわけ、胸に秘めている事を言ってしまう事を恐れている模様。周りは反対するも、医師高峰により、執刀される。夫人は微動だにせず。手術中、医師高峰と夫人の交わす言葉が、物語を解くキーワードである。

そもそも、麻酔なしで手術だなんて、ありえない話である。
そういって一蹴できない私はまだ、何かを夢見ているのかも知れない。

この後、夫人は亡くなり、高峰も後を追って自害する。

自分で書き始めといてあれだが、あまり多くを語りたくない。いろいろ解説やら感想やらを書こうと思っていたが、気が変わった。ただ、ひたすらに、黙々とこの美しい物語に酔えばいい。もし私が夫人だったら、麻酔なしで手術して愛に殉ずることができるか、と置き換えて考えるのはナンセンスの極みである。そもそも、泉鏡花の小説を読むときに実生活や現実なんてものは考えてはいけない。ドイツ・ロマン主義の小説を読むがごとく、ただ自分だけの世界で、素直に甘美さを享受してうっとりすればよい。そして、感極まったら叫べばよい。

あなただから あなただから!!