Beauty & Chestnut

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山形旅行記(米沢〜高畠)

まだ雪が残る西吾妻スカイバレーを下って短いトンネルを出た瞬間、私は安堵のため息をついた。牧歌的な田園風景が広がる2号線を北上し、米沢市街地を目指す。2年前に山形ビエンナーレのために訪れた時は終始土砂降りの雨に見舞われたが、幸い今日は晴れである。目の前に無尽蔵に広がる田畑は非日常感を醸し出し、中原中也の頑是ない歌の冒頭が脳裏によぎった。実際の所、それほど遠くへは来ていない。しかし、よく知らない土地というのは距離に関係なく気分を高揚させ、また不安にもさせる。この入り交じった感情を味わうのが、私にとっての「旅」なのである。


しばらくすると、一軒家がぽつぽつと現れ始めた。それから15分程して宿へ到着した。荷ほどきをして、軽装になったらすぐに米沢駅へ。前から行ってみたかった高畠ワイナリーへ向かうためである。20分程西へ向かい、2駅分の切符を買う。電車はすでにホームで待機しており、慌てて駆け込む。適当な空席を見つけて腰掛け、高畠駅からワイナリーへの道順を調べる。時刻は13時半。ワイナリーに着いたら遅い昼食にしよう、と考えながら出発を待った。それからすぐに高畠駅へ到着した。駅のホームでは赤鬼と青鬼の像が乗客を迎えてくれた。高畠出身の有名な童話作家、浜田広助の代表作「泣いた赤おに」に登場する赤鬼と青鬼である。


改札を出て10分程歩き、高畠ワイナリーへ。今日はワインのイベントが開かれているらしく、近くには臨時駐車場まで設置されていた。小さな子供を連れた家族連れが多く見受けられ、幼少期からワイナリーに親しむ山形県民の文化水準の高さに驚いた。ワイナリーの広場には様々な出店があり、トリッパやインドカレーなどの外国の料理や芋煮、玉こんにゃくなど地元の料理等、幅広く提供されていた。会場ではグラスを購入すると、高畠ワイナリーのワインがグラス単位で飲むことが出来た。ざっと20種類近くあっただろうか。まずはマスカットベーリーAを。キャンディのような、可愛らしくて軽い風味が最初の1杯として丁度いいのである。そして、合わせるのは米沢牛の串焼き。期待通りマスカットベーリーAは良い仕事をしてくれて、牛肉の脂をすっきりと流してくれた。

上機嫌になった私は2杯目を選びに行く。1杯300〜500円の商品が並ぶ中、愛しのピノノワールが1杯800円で鎮座していた。珍しい国産ピノである。ちょっと値が張るが、旅先で財布の紐が緩んでいる今こそ飲み時である。合わせるのはトリッパ、クリームポテトの2品。ピノの繊細さを損なわない、ある程度味付けが薄めの洋食をチョイスした。1本4000円するだけあり、かなり本格的な味わいである。これは後日通販で買わねば、と思った。

そしてデザート代わりに洋ナシのワインを。蜜のような、上品な甘さで、夏に冷やして飲みたい。


1時間ほど滞在し、次は浜田広介記念館へ。

「泣いた赤おに」はかなり有名な作品らしいが、私は読んだことが無かった。「絶対に泣ける童話だから」と知人が言っていたので、どんなものかと思っての訪問である。到着して15分ぐらい経った頃、泣いた赤おにの上映が始まった。あらすじ紹介は巷に溢れているので割愛する。デュマ・フィスの椿姫のような男女の別離だったら去った側も残された側も苦しい事が容易に想像できるし、実際そのような描写があったのだけど、これが友情に基づく別離だったらどうなのだろうか・・・。青鬼は自分が良いと思った行動をして、望んだ通りの結果を赤鬼にもたらした。だから旅先で赤鬼の事を想う時、それは「今頃幸せに暮らしているかなぁ」というポジティブなものである可能性がある。私は青鬼の行動を「自己犠牲」だとは思わない。自ら提案し、遠慮して断った赤鬼を遮って実行するところに、どこかヒーロー的な陶酔感が見受けられるからだ。一方残された赤鬼の立場で考えると、ひとたまりもない。喪失感と後悔を抱えたままずっと生きていくのかなぁ、と想像すると確かに泣ける。人間と友達になりたいと思う鬼なので、間違いなく純粋でいいやつなのだ。数か月後には人間との新しい生活をエンジョイしているようには思えない。ともあれ、この種の話はここで終わるから「泣ける」ものなので、マディソン郡の橋よろしく続編は無い方が良い。ただ、1か所だけ好きに改変できるなら、青鬼の手紙は自宅の扉ではなく、赤鬼とよく遊んだ秘密基地などに設定したい。自宅の扉なら赤鬼より先に村人が見つけてしまうかも知れないからである。


上映後はワインで上がったテンションはどこへやら、ずっしりとした重い気持ちになってホテルへ向かった。大人になると何らかの喪失経験を何度かするものなので、子供のように「赤おにかわいそう〜」では済まされないのである・・・。やっぱりね、どんなに良い事であっても、誰かを残して去っていくのは良くないのよ。青おにさんよ、大人になって「謝罪(の演技を)して赤おにと一緒に村人たちと仲良く過ごそう。」という打算を身に付けて戻っておいで。