Beauty & Chestnut

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こだわりは細部に宿る リストランテ美郷

イタリアンというのは、差別化が難しい分野だと思う。場末の喫茶店で出てくるような、ふにゃふにゃになった業務用パスタと妙に酸味が利いたトマトソースは別として、イタリアンレストランと称するお店に入れば外れることは滅多にない。私はこれをイタリアンのコモディティ化と勝手に呼んでいるが、だからといってイタリアンを蔑ろにするわけではなく、オーナーやシェフの表現力を感じ取り、工夫を読み取る努力が客側にも必要だと思っている。たとえばスパゲッティ1本にしても、既製品なのか、手打ちの物なのか。湯で加減は適切か。サーブ時の温度はどうか。ソースとの絡み具合はどうか。麺は小麦100%なのか、それとも全粒粉なのか。残念ながら素材がオーガニックなのか、そうでないのかは私には分からないし、そこまで知りたいとは思わない。いずれにせよ、スパゲッティ1本から様々な情報を得ることができる。そこにソースや具材などの要素が加わり、パスタの表現は無限に広がる。普通のイタリアン、というものは存在しないのである。

先日、思いつきで突発的に京都へ旅行してきた。折角なので何か京都らしい物を食べたいと思い、あれこれ頭を悩ませていたら「町屋」というキーワードが頭に過ぎった。少し調べてみたら、町屋を改装したレストランが市内に多く存在していることが分かった。町屋フレンチ、町屋カフェ、町屋イタリアン・・・。町屋だけで食事をしてまわれば、軽く数ヶ月はかかるんじゃないかと思った。それだけ町屋という文化を大事にしている人もいれば、町屋ブランドの恩恵にあやかろうとしている人もいるという事である。数ある町屋レストランの中から、今回はイタリアンレストランの「リストランテ美郷」を訪問することにした。注文した料理は一番シンプルなコース(前菜、パン、パスタ、飲み物)にスパークリングをグラスで1杯。パスタの後に赤ワインとチーズの盛り合わせを頼みたかったが、行程が詰まっていたので今度の機会にすることにした。

料理:★★★+
食前酒代わりにスパークリングワインを注文した。出された時の泡の勢いと余韻の長さ、香りの豊かさから、回栓してから間もないことが伺える。イタリアワインには詳しくないので精確な描写は難しいが、よく冷えたシャルドネをスパークリングにしたような、キリっとしつつも豊かさも感じられ、はちみつを思わせる素敵な1杯だった。前菜はオリーブオイルベースのドレッシングがかかったサラダ、ブロッコリーをアンチョビで味付けしたもの、イタリアンオムレツ、生ハムとハード系チーズ一切れ、きのこのガーリック炒め、燻製風味のホタテが少しずつ綺麗に盛られたものであった。色んな物を少しずつ味わいたい人には打ってつけである。サラダはハーブが数種類使われており、軽いながらも上品な風味に仕上がっており、ドレッシングと相性が良い。私はキッチンが見えるカウンター席に座っていたが、料理人が丁寧に盛っている姿が好印象だった。パスタは赤ワインで煮込んだひき肉と京都産のネギをつかったフィットチーネ。生麺を茹で、ソースを絡めてサーブされる。ネギとひき肉の相性が良いことは和食経験で知っていたが、それをパスタと合わせてしまうのは初めてで、今度自宅でもまねをしてみたいと思った。ネギの甘みと、ひき肉の旨みが相乗効果となって至福のランチタイムを演出してくれる。カリっと香ばしいパンとの相性もよく、食が進む。

空間:★★★+
町屋を改装した建物で、小さいながらも全体的に品が良い。シンプルな内装と壁にかけられた小さな写真が地中海地方のような暖かい場所にある家を連想させる。その一方で、店の奥を眺めると中庭があり、観光客を楽しませる。木の温かみと日本文化とイタリア文化をマイルドに掛け合わせつつ、町屋というスパイスが添えられている印象を受けた。表には目立った看板がないが、有名な隠れ家という、相反する要素を組み合わせてしか表現できないものがある。

食器:★★★
白を基調としたシンプルな食器を用いていた。丁寧に磨かれており、料理を美しく見せる機能を果たしている。

接客:★★★+
店内は予約で一杯にも関わらず、スタッフの方からはお客様一人ひとりに対する気配りが感じられた。キッチンがオープンになっているので料理人の仕事を見ることができ、真剣で丁寧な仕事をしている様子が伺えた。職人、という言葉が似合う雰囲気である。居心地が良い空間だ。

総合評価:★★★+
総じてコストパフォーマンスが良い店である。ワインの管理状態もよく、料理や空間、接客など、どれを取っても心地よい。店が駅から少し離れているのが難点であるが、それゆえに落ち着いた雰囲気や隠れ家感の演出に成功している。一人でも複数でも、予約は必要であるが気軽に訪問できる素敵なレストランである。次回はディナータイムに再度訪問してみたい。